2016年2月8日月曜日

『ビリー・バッド』(光文社古典新訳文庫): ハーマン・メルヴィル

ビリー・バッド (光文社古典新訳文庫)ビリー・バッド (光文社古典新訳文庫)
ハーマン メルヴィル Herman Melville

光文社 2012-12-06
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【概要】
書名:ビリー・バッド
著者:ハーマン・メルヴィル
訳者:飯野友幸
出版社:光文社(光文社古典新訳文庫)
頁数:215頁
備考:中篇小説。

【作者概要】
 ハーマン・メルヴィル(18191891)。アメリカ合衆国の小説家。生前はあまり評価されず、日々の生活に追われながら作品を執筆。晩年は息子の自殺など不幸が重なった。

【感想】(ネタバレあり)
メルヴィルの最後の小説で、死後1924年に初出版。

物語の筋は単純。イギリスの軍艦に強制徴用されたビリー・バッドは、無垢で善良な性格のために他の乗組員から愛されるが、先任衛兵長(艦内警察官)のクラガートにだけは嫌われてしまう。クラガートは、「生来の悪」を隠して生きている人物で、小説内では、ビリーとは対照的な役割を担っている。

クラガートはビリーが反乱を企てていると艦長のヴィアに謗る。ヴィアはビリーを呼び出し、弁解をしろと迫るが、その時ビリーは思わずクラガートを殴りつけて殺してしまう。その後、ヴィア主動による軍法裁判が行われ、ビリーに極刑が下される。そして、明朝、他の船員が見守る中、ビリーに対する絞首刑が執行されるのであった。

主な登場人物は、上の要約に挙げたビリー、クラガート、そしてヴィアの3人であるが、彼らの心理についてはほとんど語られていない。語られているのは、彼らの行動を規定するメカニズムに関する事柄。クラガートの主要な特性である「生来の悪」を哲学的に分析する箇所も、一見すると時代背景の説明としか思えないような箇所も、このメカニズムを知る上で必要な断片なのだ。

その断片の組み合わせ方によっては、本書は、宗教的な物語のようにも読めるし、善(ビリー)と悪(クラガート)とは別次元的に存在する法(ヴィア)に関する寓話としても読めるし、また別様の読み方もできると思う。

捉えどころのない小説だが、読み終わってみると、自分がこの小説に捉われていることに気付く。例えば、ふとしたきっかけで、死刑執行前にビリーが「神よ、ヴィア艦長を祝福したまえ!」と叫び、後日談において死の床についたヴィアが「ビリー・バッド、ビリー・バッド」と呟くのは、一体何を意味しているのか、とかそんなことを考えてしまう。