村のロメオとユリア (岩波文庫 赤 425-5) ケラー 草間 平作 岩波書店 1972-05 売り上げランキング : 530697 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
【概要】
書名:村のロメオとユリア
著者:ゴートフリート・ケラー(ゴットフリート・ケラー)
訳者:草間平作
出版社:岩波書店(岩波文庫)
頁数:126頁
備考:中篇小説
【作者情報】
ゴットフリート・ケラー(1819-1890)。スイスの小説家。ドイツ語で執筆。
【感想】(ネタバレあり)
スイスの架空の村「ゼルトウィーラ」を舞台にした連作短編集『ゼルトウィーラの人々』の中の1作品。1856年刊行。
タイトル内の「ロメオ」と「ユリア」をそれぞれ英語読みすると、「ロミオ」と「ジュリエット」。つまり、『村のロメオとユリア』は、シェイクスピアの有名な戯曲『ロミオとジュリエット』の村バージョンとなるだろうか。
比較的裕福な農夫マンツとマルチはゼルトウィーラの村でそれなりに仲良く暮らしていたが、新たに開墾した土地の境界を巡る問題から軋轢が生じてしまう。この軋轢は収まるどころか逆に激しくなり、マンツとマルチは次第に相手を打ちのめすことだけに専心するようになる。その結果、両家とも、田畑を顧みなくなり、濫費を重ね、そして没落していくのだった。
そんな憎しみ合うマンツとマルチの最大の被害者は、マンツの息子サリーと、マルチの娘ヴァヘーレン。二人は、幼馴染で、成長とともに互いに魅かれ合うようになっていた。
両家の争いにおいて先に財産を消尽してしまったマンツ一家は、生活費を場末にある飲み屋の経営で稼ぐために町へと引っ越す。一方、マルチは心労で妻を喪う。
その後、サリーはヴァヘーレンとの偶然の再会を果たすものの、逢瀬の現場を見ていたマルチの頭に怪我を負わせてしまう。その怪我が原因でマルチは狂人になってしまい、精神病院に入院。マルチの家は抵当に入れられ、ヴァヘーレンは奉公に出ることになった。
そして、サリーとヴァヘーレンは、なけなしのお金を持ってヴァヘーレンの奉公先へと向かうのだが、途中で気が変わり心中する。
『ロミオとジュリエット』を下敷きにした設定や物語の筋などに特出しているところはあまりないし、感傷的すぎる嫌いもある。けれども、魅かれる箇所も多く、印象に残る小説だと思う。
例えば、マンツとマルチがつかみ合って喧嘩をする場面。共に喧嘩なんてしたことがないため、憎しみだけが先に立ち、無様に転がり合うだけになるのだが、その時の見ていられないほどの滑稽さと哀しさは、両家の争いの本質を良く表していると思う。
個人的に最も良いと思う場面は、サリーとヴァヘーレンが徒歩で奉公先に向かうところ。先を思えば茫洋とする状況の中で、そのことを気にしないようにしながら、喫茶店のようなところで珈琲を飲んだり、村祭りで踊ったりと、今を楽しもうとするサリーとヴァヘーレン。その先にある悲劇的な結末を予感させつつ、いつまでも二人をそっとしておきたくなる。美しく、そして切ない場面だ。