2016年1月18日月曜日

『カルメン/コロンバ』(講談社文芸文庫):メリメ

カルメン/コロンバ (講談社文芸文庫)カルメン/コロンバ (講談社文芸文庫)
プロスペル メリメ Prosper M´erim´ee

講談社 2000-07
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【概要】
書名:カルメン/コロンバ
著者:プロスペル・メリメ
訳者:平岡 篤頼
出版社:講談社(講談社文芸文庫)
頁数:369頁
備考:中篇小説集(2篇収録)

【作者情報】
プロスペル・メリメ(1803-1870)。フランスの小説家。

【感想】
「カルメン」、「コロンバ」というメリメの代表的な中篇小説を2篇所収している。「カルメン」は、岩波文庫や新潮文庫などでも容易に手に入るので、「コロンバ」を読みたい人向けの本かもしれない。

【カルメン】(ネタバレあり)
1845年発表。作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)がオペラ化したことでも有名なメリメの代表作。

メリメがスペインで出会ったドン・ホセの身の上話という体裁をとった中篇小説。ジプシーの美女カルメンに激しい恋心を抱いたホセは、軍隊から逃亡し、カルメンのために盗賊に身を落とす。その後、カルメンの夫ガルシアが脱獄してくると、ホセは、同じ盗賊団の仲間としてガルシアと行動を共にするようになるのだが、熱愛するカルメンの夫と相容れるわけもなく、結局ガルシアを決闘で殺してしまう。これで満足がいくと思いきや、ホセは、闘牛士のルカスに気を移したカルメンさえも殺してしまうのだった。

カルメンの美貌と自由を欲する気質は男を暴力的にするようだ。ガルシアは一見すると、ただ凶暴なだけの男で、ホセとは違いカルメンをそれほど愛しているようには見えないが、実際にはガルシアもカルメンに狂わされた男なのだろう。ホセがカルメンを殺すのに使った匕首が元々はガルシアのものだったことは、カルメン殺害がガルシアの願望でもあったことを暗示していると思う。

あと物語とは直接は関係しないのだが、夕暮れ時になると裸になって川で垢を落とす女性たちを、暗闇で見えないのに関わらず男たちが遠くから一生懸命覗こうとしているエピソードと、それに続く、夕暮れ時を知らせる鐘の音をいつもより早く鳴らさせて、明るいうちに川に入る女たちを男たちがニヤケながら見つめるエピソードがいい。冒頭に挿入されるこの楽園的なエピソードは、作中のメリメが感じている旅の高揚感や幸福感を上手く表しているし、読んでいる私もまた少し背徳的な喜びを覚えずにはいられない。

実際に作中のメリメもこのエピソードを当初は非常に気に入っている。しかし、メリメがカルメンと邂逅した後では、メリメ自身も陰鬱となり、このエピソードがメリメを惹きつけることもなくなる。メリメ自身もまた、ホセと同様に、カルメンと出会うことによって失楽したのだ。ホセは、メリメの(そして読者の)一つの可能性なのである。

【コロンバ】
「カルメン」と並ぶメリメの代表的な中篇小説。1841年発表。

大佐とその娘は、観光のためにシチリア島へと向かう途中で、シチリア島出身の男オルソと出会う。オルソの父親はある男の謀略によって殺されており、島の古くからの掟では、そのような場合には、父親の敵を討たなければならない。しかし、オルソは島外の生活が長かったため、そんな野蛮な掟に従う気にはなれなかった。

ところが、シチリア島にずっと住んでいたオルソの妹コロンバは復讐を誓っていた。コロンバは嫌がるオルソを焚き付け、敵との戦いを余儀なくさせるのであった。

大佐の娘とオルソのラブロマンスの要素もあるが、注目すべきは、やはりそのラブロマンスの背後で着々とオルソを戦いへと引き込むコロンバの悪女ぶりだろう。コロンバは、カルメンのような奔放自在さが故に男を惑わすファム・ファタールではなく、自分の目的を果たすためには手段を選ばず、人を不幸にすることを目的としているので、カルメンよりも怖い。

悪女やファム・ファタールのような言葉を使って小説を説明すると、ミソジニー(女嫌い)的な小説に見えてしまうかもしれないが、個人的には、これらの小説は、ミソジニー的というよりマゾヒズム的な小説だと思うのだが、どうだろうか?

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