フラックスへの反論・ガイウスへの使節 (西洋古典叢書) フィロン 秦 剛平 京都大学学術出版会 2000-10 売り上げランキング : 584444 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
【概要】
書名:フラックスへの反論/ガイウスへの使節
著者:(アレクサンドリアの)フィロン
訳者:秦 剛平
出版社:京都大学学術出版会(西洋古典叢書)
頁数:285頁
備考:史書
【作者情報】
紀元前20~30年頃に生まれ、紀元後40~45年頃に死去したとされるユダヤ人哲学者。膨大な著作があることでも知られている(邦訳がどの程度あるかは分からないが、軽く調べた感じでは少ない印象)。当時のローマ帝国における第2の都市アレクサンドリアでユダヤ人共同体の指導的地位にあったと考えられている。
【感想】
本書には、「フラックスへの反論」と「ガイウスへの使節」という2つの文章の邦訳が所収されているが、これらがどのような文章かを説明するのは難しい。一般には、古代のポグロム(ユダヤ人に対する迫害)を今に伝える貴重な資料という説明がなされているけれど、それは結果論であって、元々の目的や用途がよく分からないのである。翻訳者の秦氏の解説によれば、読むためのものではなく、読み上げるためのもの、つまり、演説用の原稿としか思えないとのことだが、何のための演説なのかははっきりしない。それゆえ、この文章をどのように評価したらいいのか戸惑ってしまうのだが、結局のところ、古代のポグロムの資料として読まざるを得ないのかもしれない。
[フラックスへの反論]
タイトルからすると、フラックスに対して異議申立てを行う文章のように思えるが、実際はそうではなく、フラックスが行った蛮行とその報いを描きつつ、フラックスにより虐げられたユダヤ人の潔白さを示すもの。ちなみにフラックスは、ローマ帝国における政治家で、ポグロムが発生したときのエジプト総督である。
フィロンは、ユダヤ人に対する迫害の波がエジプトのアレクサンドリアにもやってきたときに、フラックスは、それを治めるどころか焚き付けたとして批判し、その時のユダヤ人の迫害の様子を描いている。ユダヤ人を特定の地域に追いやるなど、ゲットーの萌芽が既に見られるのが印象的。
結局、フラックスは失脚し、流刑地で時のローマ皇帝の命令により殺害される。フラックスの悲惨な末路は因果応報なのだとフィロンは説く。
[ガイウスへの使節]
ガイウスは、第3代ローマ帝国皇帝カリギュラのことで、ポグロムが発生したときのローマ皇帝。ネロと並ぶ暴君として有名。アレクサンドリアでポグロムが発生したとき、アレクサンドリアのユダヤ人共同体ィは、ガイウスに対する陳情のためにローマに使節団を派遣する。フィロンはその一員であった。
「ガイウスへの使節」では、使節団の様子や陳情の内容と、その前後のガイウスの状況や行為などが示されている。当初賢帝と思われていたガイウスが暴君に急変し、それを受け入れることができない民衆の動揺などまで描かれており、フィロンの考察力も味わうことができる。
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