2017年1月10日火曜日

『パリはわが町』:ロジェ・グルニエ(みすず書房)

パリはわが町パリはわが町
ロジェ・グルニエ 宮下 志朗

みすず書房 2016-10-21
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【概要】
書名:『パリはわが町』
著者:ロジェ・グルニエ
訳者:宮下志朗
出版社:みすず書房
頁数:256
備考:回顧録

【作者情報】
フランスの小説家。1919年生まれ。

【感想】
御歳97歳、フランス文壇現役最高齢と目されるロジェ・グルニエの最新作。ロジェ・グルニエといえば、『シネロマン』のような素晴らしい長篇小説も執筆しているけれど、近年では、中短篇や断章風エッセイなどが主な仕事になっていて、これが個人的な嗜好に合っているようで、琴線によく触れる。

『パリはわが町』は断章風に書かれた回想録。一つ一つの章に標題としてパリの地名や住所がつけられている。これらの地名や住所は、パリを良く知る人ならその場所を鮮やかに思い出すことができるものだと思うのだけど、残念ながら私は荷が重く、ほとんどの場所が霧で囲まれた未知の場所に過ぎない。

けれど『パリはわが町』は、そんな私のようなものにとっても実りある本だった。一部の例外を除けば、各章は数行から1頁強の短いスケッチのようなもので、幼い時代の両親や親戚との思い出に始まり、戦争を経て、ジャーナリストとして働きながら、様々な人たちと交流していく様子が基本的に時系列に沿って描かれている。

この本で最も魅力的なのは、パリで人生を交えた人たちとの思い出だろうか。グルニエが思い出すのは、少なからず影響を受けた人たちのことだと思うのだけど、その中には、カミュ、サルトル、ヘミングウェイ、カレン・ブリクセン(イサク・ディーネセン)、カルペンティエールといった、海外文学好きには名前を聞くだけでわくわくするような人々が多く入っている。それだけでなく、俳優やミュージシャンや政治家もいる。

それらは短いエピソードばかりだが、伝記などではあまり語られないであろう、打ち解けた姿などが垣間見られて楽しい。バタイユが一般読者のことを気にしていたり、ジュネが自分の収容されていたサンテ刑務所をマンションの窓からじっと見つめたり、マイルス・デイヴィスが観客に背を向けて演奏したり、カレン・ブリクセンがラムセス二世のミイラに似ていたりと、なんだか夢物語のようだ。

他にもパリの解放時にグルニエがレジスタンスとして行動していたことも明らかにされる。この章は、例外的に長く、そして緊張感が漂う。好々爺のイメージがあるグルニエだが、若かりし頃は意外にも熱い男だったのだ。意外といえば、たまに毒を吐くグルニエもいて破顔してしまう。

思い出の多くは若い頃のもので、歳を取るにつれ減っていくのは少し寂しい。しかし、思い出とはそんなものかもしれない。御歳97歳、次作があるか分からないけれど、期待はせずに、でも端坐して待ちたいと思う。

ちなみに訳者解説によると、
グルニエの最後の短篇集『長い物語のための短いレシたち』(2012年、未訳)を精読したけれど(作者自身、短篇小説はこれで書き納めだと宣言している)、人生の悲哀が描かれ、どの短篇も胸にジーンときて、「<挫折>の小説家」と呼ばれるグルニエの真骨頂が発揮されている。これなども、いつか日本語にして熱心な読者に紹介できればと思う。

とのこと。熱心とはいえない一読者ではあるけれど、これは期待して待ちたい(もちろん、端坐致します)。




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